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大阪高等裁判所 昭和61年(ラ)378号 決定 1987年1月09日

抗告人(債権者)

藤澤博

右代理人弁護士

深草徹

相手方(債務者)

株式会社黄起

右代表者代表取締役

黄田世堅

主文

一、原決定を取消す。

二、本件を神戸地方裁判所に差戻す。

理由

第一、本件抗告の趣旨と理由は別紙記載のとおりである。

第二、当裁判所の判断

一、申請の理由の一及び二並びに三のうち相手方が本件契約の解除条項に基づき、昭和六一年四月三〇日付内容証明郵便によつて、抗告人に対し、同年五月三一日限り本件契約を解除する旨の意思表示をなしたこと及び同四のうち相手方が同年六月二日に本件土地南端境界付近に鍵により着脱可能な車止め鉄柱三本を設置したことは、当事者間に争いがない。そこで、まず本件契約解除の効力について検討する。

二、抗告人は、「本件区画付近(以下、「本件駐車場」という)が諏訪山台タウンハウス(以下、「ハウス」という)入居者のための専用駐車場であつて、本件契約は止むを得ない事由のない限り一方的解約はなし得ない」、また、「本件解除は権利濫用である」と主張するところ、当事者間に争いのない事実及び疎明資料を総合すると、相手方が自己に通路や自動車の駐車場所として利用するための空地として本件土地の所有権を残したうえ昭和五四年一〇月ころ、ハウス(八戸)を敷地所有権付で分譲したこと、その際、相手方が発行したパンフレットには小さな見取図も記載され、「駐車場は別途賃貸契約となります」と明記されていたこと、抗告人が昭和五四年一〇月一三日付でハウスの一戸(右図面記載Cタイプ2)を相手方から買い受け(妻と共同名義)たうえ、同日ころ、相手方と本件利用契約を締結したこと、現在駐車区画は計四台分設けられているが契約当初は区画もなく、また現在に至るまで屋根、障壁、囲い等の類いは一切ない青空駐車場であり、また駐車場利用のため取り交された契約書には「指定場所は駐車場内に於て明示する」とされているに拘わらずその指定がなされたこともなく、債務者と利用契約を締結した者は、各自思い思いに本件駐車場付近に自動車を停めていたことと、昭和五八、九年ころ、債務者によつて黄色ペンキで四区画線(ハウス入居世帯数に満たない。)が引かれたが誰がどの区画を利用するかについて、利用者間でも、また利用者と債務者との間でも話し合われたことがなく、そのため各区画には利用者を示す名札も付けられないまま利用者が各自適当に利用していたものであつて、抗告人の本件区画の利用も相手方の指定や他の利用者との話し合いの結果ではなく、たまたま自然発生的に抗告人が本件区画を利用する慣行が生じたものであること、ハウス分譲の際交された売買契約書には駐車場についての記載もないこと、の各事実が一応認められる。

右諸事実によれば、本件駐車場は、主にハウス入居者の利用を予定し、またハウス入居者らと契約され利用されて来たものであつて、本件駐車場を利用出来る入居者にとつては極めて便利なものであり、ハウス分譲契約と密接に関連してなされたその付随的な契約であると解すべきである。即ち、もとより本件契約はハウス分譲契約とは別個の駐車場利用契約であるが、ハウス分譲契約に付随してハウス入居者が使用する駐車場を目的とした土地の賃貸借契約である。

とすれば、本件土地の賃貸借契約は民法六一八条、六一七条一項一号に従えば解約申入後一年を経過した時に終了するというべきであるが、相手方が本件駐車場賃貸借契約書一三条に基づく解除通告書により、特約である同契約一三条に基づき、本件賃貸借契約は昭和六一年五月三〇日の期間終了の時点で終了するものというべきである。

しかしながら、右特約ないし解約申入の効力いかんについてはなお疑問の余地がないではないが、この点を暫く措くとしても次のとおり占有権に基づき本件仮処分申請の被保全権利を認めることができる。

三、次に占有権の有無について判断する。

前示当事者間に争いのない事実、前認定の事実、一件記録に照らすと、ハウス分譲の際相手方の配付したパンフレットには駐車場利用について「別途賃貸契約」と、また契約書の表題が「駐車場賃貸借契約証書」とそれぞれ「賃貸借契約」と明記されているし、前認定の契約の内容、利用形態を総合すれば、抗告人は他の駐車場利用契約をしているハウス入居者と共に本件土地を含む四区画につき相手方との間に駐車場として使用することを目的とした土地賃貸借契約が成立し、抗告人を含む右賃借人らの間に自然に土地区画割による自己使用区分の割振りが黙示に成立しており、抗告人は本件土地区画について自己のためにする意思をもつて事実上これを支配し本件土地区画を占有しているものと認められる。けだし、民法一八〇条所定の「物ヲ所持スル」とは必ずしも物理的に物を把握していることを要せず、社会通念上認められるような事実上の支配があれば足りる。そして、本件土地は団地敷地内に黄線によつて一見駐車場として区画がなされ抗告人が前示経緯から事実上これに駐車することを継続してこれを事実上の支配をしていると認めるのが相当であつて、抗告人が前認定のとおり車を運転している間は本件土地は空地のような観を呈するけれども、なお団地敷地内にある以上団地住民以外の者が自由に使用できるものでもないし、一時不在者でも留守宅の家財につき所持を有するのと同様、抗告人になおその所持があるとみて差支えない。

第三、結論

したがつて、本件土地の賃貸借契約を寄託契約であるとし、かつ、占有権の不存在を理由として抗告人の本件仮処分申請を却下した原決定は失当であるから、これを取消し、原裁判所において抗告人に相当の担保を立てさせるなどしてその疎明ないし必要性を補充させたうえ、適当な仮処分をさせるため本件を原裁判所へ差戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官廣木重喜 裁判官諸富吉嗣 裁判官吉川義春)

別紙抗告の趣旨

一、原決定を取消す。

二、相手方は、抗告人が別紙物件目録記載の土地内に黄色ペンキをもつて指定された箇所(車四台分の駐車枠が表示されているうち南から二枠目)を駐車場として使用することを妨害してはならない。

三、申請費用、抗告費用は相手方の負担とする。

との決定を求める。

抗告の理由

一、原決定は、本件駐車場契約と相手方が分譲した諏訪山台タウンハウスの分譲契約との特別な結びつきを否定し、相手方の解除の自由を容認している。しかし、一般に車両保有者にとつて、相手方発行のパンフレット(疎甲第三号証)に駐車場が明示してあることが、同タウンハウス購入の大きな動機となり得ること、相手方も車両を保有している購買層を意識し、右の如く、パンフレットに駐車場を明記したことは明らかであること、抗告人自身、車両保有者として、前記パンフレットに駐車場が明示されていることを認識し、相手方との間で同タウンハウス購入後直ち(入居と同時)に本件駐車場契約を締結したこと、相手方が同タウンハウス入居者に配布した「諏訪山台タウンハウスのしおり」にも「自動車は駐車場以外の場所には絶対に駐車しないようにして下さい」と明記されてることから、車両保有者にとつて駐車場契約を自由に解除されると生活及び業務に重大な支障をきたすに至ることなどから、相手方は本件駐車場契約を自由に解除することは認められず、やむを得ない事由の存する場合にのみ解除が認められるものと解すべきである。相手方は、何らやむを得ない事由を主張、疎明していないので、本件駐車場契約について、相手方がなした昭和六一年四月三〇日付解除の意思表示は無効である。

二、原決定は、本件駐車場契約を単なる寄託契約と解し、本件土地内の駐車場部分に対する抗告人の占有を否定した。しかし、相手方は、人的、物的設備により、本件土地内駐車場部分を管理する行為は全くしておらず、駐車場契約をなした者の自由な利用に任せてきたこと、契約自体(疎甲第二号証)駐車場内の指定場所の賃貸借契約であること、場所の指定をしなかつたのは相手方の怠慢であり、場所の指定がないことを利用者側の権利・地位を弱める方向に解釈してはならないこと、昭和五八年ころには利用者側の要望で、相手方が黄色ペンキで駐車場区画をなし、特に指定行為はなかったものの、抗告人の駐車場区画が南から二番目に特定し、長期間にわたり、右区画の平穏な利用が継続されてきたことから、右区画について抗告人の占有を認めるのが相当である。仮に右区画と特定されなくとも本件土地内の駐車場部分についての占有を認めるべきである。そうでなければ、相手方の自力救済を容認することになつてしまうであろう。

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